故郷・美祢に「食」と「音楽」で恩返しをするため、山口県美祢市初となる野外音楽フェス『RISE AGAIN vol.0』の開催を決めました。
場所と開催日が決まってからの準備期間はたったの二ヶ月。準備期間の短さはもちろん、様々な壁が立ちはだかり成功までの道のりは決して簡単なものではありませんでした。そこでこの記事では地域活性化のための野外音楽フェス『RISE AGAIN vol.0』をどうやって作っていったのかを書きたいと思います。
Contents
会場探し
野外フェスをしようと決めてからまず動き出したのが会場探しです。美祢市には広場はたくさんありますが立地や条件も様々です。そこでまずはどのような場所がvol.0にふさわしいかを考えました。
目標来場者数に合わせた広さ
会場の広さはイベント当日の来場者数によって決める必要があります。来場者が少ないのに無駄に広くても寂しいし、狭すぎても来場者にストレスを与えてしまいます。
そこで今回は目標来場者数を800人(合計)に想定し、常時400人が会場にいても狭くならず、200人しかいなくても寂しさを感じない広さの会場を探しました。
交通アクセスが良い
山口県美祢市は正直言ってど田舎です。電車やバスも少なく、アクセスの悪い場所を選んでしまうと、電車に一本乗り遅れるだけでイベントに間に合わなかったり、帰りの電車を逃すと僻地に取り残されるなんて恐れも…。そこで最低限、美祢市の中心である美祢駅から徒歩圏内にある会場を探しました。
駐車場がある
美祢市内や、山口県内からの来場者の多くは車でくると予想されるため、十分な駐車場は必須。何台必要なのかは当日になってみないとわかりませんが、駐車場は多ければ多いほど良いのは間違いありません。そこで、なるべく多くの駐車場を確保できる会場を探しました。
控え室(楽屋)がある
今回は県内外からライブシーンで活躍するアーティストを呼ぶため、アーティストに気持ちよくライブをしてもらいイベントを楽しんでもらえる環境づくりが重要です。そこで、できるだけ広く快適な控え室(楽屋)を作れる会場を探しました。
上記条件を元に検討し、美祢さくら公園での開催を決定しました。
条件は全てクリアしているし、この場所では毎年他の祭が行われているので大丈夫だろうと甘く見ていたのですが、話を進めていくとこれが簡単なようで簡単にはいきませんでした…。
開催日は土曜日がおすすめ
当初はあまり寒さを感じない10月中に開催しようと思っていました。しかしさくら公園に隣接する市役所の駐車場と市民会館の控え室が共に空いている日程が10月にはなく、11月11日(日)を開催日に決めました。…が、開催日は断然、土曜日がおすすめです。
土曜日をオススメする理由
地域活性化のため県外からたくさんの人に美祢市に来てもらうという目的があります。しかし月曜日から仕事の人が多いため、日曜日開催だとどうしても集客に影響が出てしまいます。
土曜日に開催しイベント後は美祢市に宿泊、そして翌日美祢市を観光してから帰ってもらう事ができれば、来場者にとっても地域にとっても良い流れを作る事ができます。
他のイベントも土曜日開催が多いため、他とバッティングしてなかなかアーティストが決まらないと言ったデメリットもあります。
雨天時の会場確保
野外フェスなので雨天時の会場確保まで同時進行で進めると、1つのイベントで同時に2つの会場を確保する必要があります。今回は美祢グランドホテルの一室を雨天時の会場として押さえましたが、やはり野外と室内での差は歴然で、来場者もかなり減ってしまう恐れがあります。
天気ばかりは祈るしかありませんが、開催日を決める際に雨や台風が多い時期を避けたり、過去10年間の天気を参考にするのも重要かもしれません。
会場の使用申請
会場選びが終わると次は使用許可申請を提出します。今回の会場は市役所に隣接する会場なので、駐車場は市役所の駐車場を使用しました。
提出書類は、
- 会場使用許可
- 駐車場使用許可
許可が出ればあとは、形になるように動くのみ!だったのですが、ここからが中々前に進みませんでした。
理由は『やったことがないことを、知らない人がやろうとしてる事への不信感』です。
今回のような初めてのイベントで、コネや繋がりが市の職員にない場合はどうしても市役所の中で煙たがられます。よそ者が来て、穏やかな環境を汚される場合もあり、職員さんからしてみても出来れば関わりたくなかったのではないかなと。
市役所の中を行ったり来たり。どこの課に行っても曖昧な対応で、どこに行けば話が進むのかが僕も職員さんもわかっていませんでした。イベントをやれる可能性があるのかないのかすらわからないまま時が過ぎていきました。
そこで僕はターゲットを市長さんに絞り、『市長さんに、僕がしたいことを伝えたい』と職員さんに話したところ、運がいい事に『移動市長室』がある事を知りました。
これは市長さんが月に一度、住民と個人面談が出来るありがたい制度です。『移動市長室』当日、資料を元にイベント概要を説明すると『協力してくれる職員を紹介しよう!ちょっと待っててください。』とある職員さんを紹介してくれて、あっけなく前進する事を承知してくれました。
出店ブースのブッキング
会場使用許可申請には『誰がどの場所で何を提供すのか』を明記して会場レイアウトを提出必要がありました。そこでまずは飲食店、物販、ワークショップを想定する来場者数と年齢層を考えて、ブースの数とターゲットにマッチする出店ブースをブッキングしていきます。
その為には出店候補者に、
- 日程
- 場所
- 出店料
- ブースの間取り
- 準備できる備品
- イベントイメージ
- こんな料理を出しい
を伝えて出店依頼を出し、これを出店予定数まで揃えてやっとブースの配置(会場レイアウト)が決まります。
僕も飲食店を経営しているので、イベント出店の話はよく頂きます。売上もよくて、集客もあり、盛上がり、楽しいイベントは勿論喜んで出店したい。しかし今回のイベントは初めての企画で実績がありません。集客出来るのか、売上がいいのか、盛り上がるのか、楽しいのかすら出店者と僕にもわからない。
でもそこを全てクリアしないと、お客様も出店者も喜べないのはわかっているし、集客出来るように魅力的なお店様に出店してほしいし、そんなお店が揃えば魅力的なイベントになるし。でも僕達には実績がないから、熱い思いで口説き落とすしか手はありませんでした。
まずは山口県内で近々行われるイベント(祭)を探し、会場に行きます。そこで自分達のイベントに来てほしいお店をピックアップしチラシ片手に強引に口説きにかかりました。
『僕達は生まれ育った美祢市でこんなイベントをしたい』
『自然の中でロックを聴いて、今までなかった文化を作り出したい』
『あなたに是非美祢市に来てほしい』
『実績がないので、未知の世界。ご迷惑をかけるかもしれないが第一歩を一緒に踏み出してもらえませんか?』
バタバタしてるイベント最中に、勝手ながらこんな会話を繰り返し、何件か断られながらも出店ブースが決まっていきました。
近隣住民の許可
毎年、この場所で行われていた他の祭が今年から他の場所に移った話は聞いていましたが、その理由が近隣住民からの苦情だったとの情報が入りました。そしてこの場所でイベントをする場合、近隣住民からの許可を取らないと会場の使用許可が出ないことが発覚しました。
そしてもっと重要なのが、会場使用許可がでないとイベント告知が出来ないことでした。
この時すでにイベントHPが完成しており、1日でも早く告知をしたかったのに提出書類が増えてしまい公開にストップをかけている状態でイベント開催日まであと1ヶ月弱…。
住民の方々への許可はその地区長さんが許可をしたらOKとだったのですが、地区長さんは当番制で定期的に代わるので『私は反対してるのに、地区長が勝手に賛成して』なんて、クレームが来ても困ると渋る方もいたり、3日間伺っても不在の方がいたりするので、早い段階で動くことをお勧めします。
そんなこんなで、なんとか書類が揃い許可が会場使用許可が降りた時にはイベント開催日まで1ヶ月を切っていました。
後援依頼
会場許可申請と同時進行してたのが、『後援依頼』です。『後援依頼』とは、イベントに賛同し応援しましょう!みたいな感じで、今回『美祢市』『美祢市教育委員会』『美祢市観光協会』に入っていただけました。
よくイベントポスター等で下の辺りに、主催 共催 後援 協賛等を目にしたことがありましたが、それについてどうこう考えた事はありませんでした。しかし今回のように地域に密着したイベント場合、地元民の集客や安心感に直結するとても重要なポイントになります。
まずは『美祢市』と『美祢市観光協会』。この2つがつくと初開催のイベントではありますが来場者目線で見ると安心感が生まれます。
そして『美祢市教育委員会』。僕は学生時代、都会に憧れをもち、田舎での楽しみ、魅力を見出だせないでいたため、美祢市に誇りを持てないでいました。
美祢市の学生たちに、ありふれたいつもの暮らしの中で、少しでも新しい文化に触れ、今後の人生の進み方の選択肢の一つにでもなってほしい。
そのためには一人でも多くの学生に来てもらいう事が大きな目的で、そのためにも『美祢市教育委員会』からのお墨付きは必須でした。そうすることにより、各学校へのアプローチもスムーズになるからです。
提出書類は、
- 開催日時
- イベント内容
- 収支予算書
- 事業計画書
- 実行委員会のメンバー構成
など。
提出してから許可が出るまで約5日。この期間はすごく長く感じました。それはイベント開催まで1ヶ月を切ってるのに、この許可がでないとフライヤーやポスター、ウェブサイトに後援名を載せる事ができず、イベントの告知が出来ないからです。
フライヤーとポスターは許可が出てから印刷に出し届くまでに数日かかります。納期を短くすると値段も上がるので、とにかく早めの申請をお勧めします。
運営資金
協賛金
このイベントは入場無料イベントのため、チケット販売によるマネタイズができません。そのため運営資金の大部分を協賛金に頼る形となります。企業や個人様がこのイベントに賛同し、お金を出してくれる、その積み重ねが母体となりイベントを作り上げます。
運営に与えられた協賛集めの期間は2ヶ月。メンバー3人。具体的な目標金額は伏せさててもらいますが、決して安い金額ではありません。
個人協賛
個人の協賛金は、Aプラン(5000円)とBプラン(10000円)をそれぞれに違う特典をつけて用意し、最終的には半々という結果でした。
当初はAプランが大半を占めると思っていたのですが、僕たちとの関係性が深い方ほどBプランを選んでくれました。
協賛金を集めるためには、どこで、どんなイベントで、アーティストは誰が来て、何にいくらかかかるから、協力してほしい。と口説きにかかる材料が揃ってからのスタートになりますが、今回は協賛金次第で出演アーティストが決まるので内容の伝え方に一苦労しました。
個人への協賛集めはまず身内や友達から始めました。やはりここでも『アーティストは誰が来るの?』と聞かれます。まだアーティストが決まっていないと伝えるしかありません。
しかし、協賛金を頂けました。他を周った時もやはり反応は同じで、アーティストが未定でもやはり協賛金を頂けました。
そうなんです、個人様からの協賛金はイベント内容ではなく、協賛金を集めている個人に出してくれているんです。
確かにこのイベントをすると決めて、場所も内容も時期も何も決まってない時点で友達が頑張れよと協賛金をくれました。
協賛してくれる方にとっては、「何をやるか」ももちろん重要ですが、『誰がやるか』というのがもっと重要なんです。
企業協賛
そして大きなお金が動きそうな企業様協賛。Aプラン(10000円)・Bプラン(30000円)・Cプラン(100000円)・Dプラン (300000円)を用意しそれぞれに宣伝広告の特典をつけました。
ここでもまずは顔見知りの飲食店、物販店に声をかけてみました。するとやはり『アーティストは誰が来るの?』『初めてのイベントなら内容がわからないから協賛出来ない』など、撃沈が続きました。
そこで一か八かの勝負で大企業の役員の方に電話したところ、なんと時間を作ってもらうことができました。
『美祢市の自然の中で、今まで目にしたことの無いような景色を作り出したい』
『ROCKを聴きながら、拳を空高く突き上げる、そんな美祢市民をみたい。』
『美祢市に生まれてよかった。そう思えるイベントに育てていくための第一歩の手助けをしてほしい。』
なんて事を内容もろくに決まってないのに熱く語りました。するとどうでしょう…。
『若者が地域を盛り上げる、それが大切なんだよ。うちもそんなにお金が余る程あるわけではないけど、少しだけだけど協力するよ。』
という言葉と共に協賛を頂くことができたのです。可能性が低くてもまずは動く事、そして真剣な想いを素直に伝える事の大事さを再確認しました。
ドリンク販売
ドリンクの仕入れと販売を実行委員で行い、その利益を運営資金に充てました。入場無料イベントでドリンク販売は重要な資金源となります。
飲み放題
『超お得、4時間飲み放題 前売り券2500円、当日券は3500円』を、フライヤー、ポスター、ウェブサイトで大々的に告知しました。
飲み放題をする狙いは…
- 『飲み放題 前売り券』を販売して事前に集客予測を知る。
- 4時間の飲み放題を付けることで滞在時間を伸ばし会場が盛り上がるようにする
だったのですが、この飲み放題チケットがビックリするほど売れませんでした。出店者、友人、知人、ポスター配布先に協力はしてもらいましたが、トータルで20枚位。
アルコールの飲み放題を情報配信しすぎると、大人の集まるイベントというイメージが先行し、小・中・高校生の来場にマイナスになるというデメリットもあります。
イベントグッズ販売
イベントのオフィシャルグッズを製作し、その利益を運営資金に充てました。しかし予算も少なかったためラインナップは少なく、
- ステッカー
- Tシャツ
- トートバッグ
- ラバーバンド
の4点のみ。協賛用のTシャツに使用した版を使いまわすことで原価を抑えてラインナップを増やせます。またラバーバンドは売れ残っても次回販売できるように、「vol.0」入れずに製作しました。
助成金・補助金
今回のイベントをきっかけに知る事になったのですが、地域には知る人ぞ知る助成金や補助金があります。条件もそこまで厳しくないので、ぜひ市区町村にお問い合わせください。
アーティストのブッキング
協賛金集めと並行して出演アーティストのブッキングも進めました。どんなアーティストをブッキングするかによってイベントの方向性が大きく変わります。
ライブ力のあるアーティスト
今回のイベントに来るお客様の大半は音楽フェスどころか、生でライブを観た事がない人たちだと予想されます。そういった人たちに、音楽を通して少しでも何かを感じてもらいたい。そんな想いから、年間何十本・何百本とライブをこなすライブ力が高い百戦錬磨のライブアーティストをブッキングしました。
『彼らのライブなら誰が観てもきっと何かを感じてもらえる』という自信がありました。
実行委員会との関係性
今回出演してくれたアーティストたちは、美祢市という場所(東京からだと移動だけで10時間以上かかる)、開催までの期間の短さ、初めての開催など不安要素ばかりにも関わらず、「お前たちがやるなら喜んで協力するよ」と二つ返事でOKしてくれました。
これは協賛集めの時と同様、「何をやるか」ではなく『誰がやるか』で動いてくれたのです。もちろん大前提としてそこには僕たちの美祢市に対する真剣な想いがあったからだと思います。
スケジュールには余裕を!
今回は実行委員とアーティストに元々繋がりがあり、偶然スケジュールが空いていたからこそ奇跡的に豪華なアーティストが揃いましたが、これは本当に稀なケースです。
実はブッキングを進める中で、僕たちの想いに賛同し出演したいと言ってくれたにも関わらず、すでに別のスケジュールが決まってしまっていたアーティストがたくさんいました。
本来であれば遅くても開催日の半年前からブッキングを開始できるのが理想的です。
宣伝・告知
SNS
実は会場の使用許可がでる約1ヶ月前、RISEAGAINが開催できるのでは?と、突っ走り始めた頃にアカウントを開設し、ジャブがてら呟いてみました。
『美祢史上初、野外音楽フェス開催決定!!』
これが予想を遥かに上回る反響を呼び、2日で25000ものインプレッションを獲得。美祢市を知っている人なら、『野外フェス』『ロック』=美祢では出来ない、とイメージできるはずです。このイメージとのギャップがありすぎるフレーズが伝わった時の反応は皆さん教科書通りのリアクションを返してくれました。
『えっ、あの美祢市で野外フェス?』
『リコーダーでの演奏会では?』
『火の回りをダンスするのでは?』
美祢市初の野外フェスを明らに小馬鹿にするコメントをみて、やりがいの大きさを感じる事ができました(笑)
Facebookページ
Twitterと並行しFacebookページを開設し、ターゲットを絞り広告を出稿。山口・広島・福岡などのファミリー層へ幅広くリーチする事ができました。
フライヤー・ポスター
田舎ではまだまだ紙媒体が強いとのアドバイスから、市のコミュニティを使い、全世帯12000部に配布し、並行して開催地近くの小学校、中学校の全生徒に行き渡るよう先生に協力してもらい配布しました。これは後援に『美祢市教育委員会』が入ってくれたおかげです。
またとても大きな力を発揮してくれたのが、実行委員会のメンバーから発信した『フライヤー配布ボランティア大募集』に対し、フライヤー、ポスター配布を、同級生達が助けてくれたことです。
2週間でポスター200枚、フライヤー15000枚をなんとかばらまき、同時に仲間の力を借りSNSでの情報拡散に力を注ぎました。
まとめ
以上が「RISE AGAIN vol.0」の開催に向けて僕たちがやってきた事です。出来ることはやりきり、あとはイベントを迎えるのみ。どれだけのお客様が来場してくれるのか…。
僕たちがやってきた事の答え合わせは、こちらの記事でご確認ください。